【読書感想】死ねばいいのに|京極夏彦|重くて深い心理サスペンスだった

こんにちは、ginkoです。
今回は、京極夏彦さんの「死ねばいいのに」の読書感想を綴ります。
インパクトのあるタイトルと、怪異な小説を書くイメージが強い京極夏彦さんの現代物が気になり、つい手に取った作品です。読んでみると、誰もが心の奥にしまいこんでいるであろう本音が生々しく言語化されており、とても胸に突き刺さる内容でした。
ネタバレは極力回避しております。個人的に感じたみどころも合わせて紹介するため、本作が気になっている人は参考にしてください。
あらすじ
ある人物の前に、一人の青年が現れます。
彼の名前は渡来健也。態度が悪くて、口のきき方もなっていない、おまけに定職につけていないただの青年です。
彼は言います。
「亜佐美のことを教えて欲しい」
渡来健也は、先日亡くなった鹿島亜佐美について知るために、彼女の関係者の元を訪ねまわっていたのです。
彼は一体何者なのか。何故、亜佐美のことを知りたいのか。。。
「死ねばいいのに」のみどころ
読後に感じた見どころを3つ紹介します。
1 圧倒的な会話劇
本作は、健也という青年が死んだ亜佐美の生前について知る為に、彼女の関係者のもとを次々と訪ねまわる形で物語が進みます。そのため、内容のほとんどが健也と関係者の会話で構成されており、それ以外の情報が全くといっていいほどありません。
あくまでも二人の会話だけにフォーカスをあてているような斬新な作品ですが、そこはさすがの京極夏彦さん。登場人物が発する言葉の力のみで、人間がもつ本質や深層心理が見事に描かれており、会話の行く先へグイグイ引き込まれていきます。
2 浮き彫りになる「人間のエゴ」
亜佐美の関係者たちは皆、亜佐美より自分のことしか考えておらず、一見すると関係者が薄情者のように感じられます。しかし、彼らには彼らの事情があり、各々が歩んできた人生の中で心が歪んでしまった結果、誰かを想う余裕がない状態であることも判明するのです。
「無自覚な悪意」や「身勝手な正義感」など「人間のエゴ」がリアルに描写されており、現代人の多くが抱えているであろう心の闇が鮮明に写し出されています。
3 ヒーローでもなんでもない異質な主人公
主人公の渡来健也は、態度も言葉使いも悪く、ヒーロー的要素を感じられない青年です。空気を読むことも、相手の情に流されることもありません。
「自分は馬鹿だからわからない」
だから教えてくれとばかりに、次々と相手に疑問をぶつけていきます。怒鳴られても殴られても、動じることなく会話を続ける様は少々不気味ですが、最終的にどこか聖者のようにも感じられる異質な主人公。「亜佐美の死の真相」よりも「なぜ彼がこの行動をとるのか」の方が気になってしまうほど、謎に満ちた不思議な作品です。
「死ねばいいのに」を読んだ感想
ここからは、読んで個人的に感じたことを綴ります。ネタバレも含むため、ご注意ください。
衝撃的なタイトル通り、重くて深かった
読む前に一番気になっていたタイトル(死ねばいいのに)は、健也が関係者に向けてはなったセリフです。そのまんまの意味ではなった健也ならではのド直球なセリフだったので、ある意味、関係者へのトドメの一言(お決まりのセリフ)のような扱いかと思っていました。
しかし、後半の方で、それまでとは違う意図で健也がこのセリフを言ったことで、そういう考えもあるのかという気づきも。ただこの場面は回想(健也が思い出して話した)として出てきたので、時系列でみれば、こちらの意図で言った方が先になります。そして、それこそが亜佐美の死の真相にもつながり、衝撃的なタイトルのもつ役割と物語の構成にただただ驚きました。
とはいえ、どういう意図があったとしても「死ねばいいのに」なんて、他人に言うものではないと個人的に思っています。ですが、それも含めて「人は何故「生」に執着するのか」「生きるってなんだろう」など、生と死についてすごく考えましたし、なかなか重いテーマだったなと感じました。
人間がもつ心の闇に違いはない
本作に出てくる関係者は、亜佐美の派遣先の社員や、自宅の隣人、元彼、母親など計6人で、会社員や派遣社員、ヤクザ、警察など職種や環境が異なっています。最後の一人を除いては、健也がその関係者のもとを訪れ会話をする・・・という流れなのですが、いずれも同様の展開になっていました。
各々の事情や主張の内容は違いますが、結局のところ「自分のことしか考えられていない」ほど余裕がなく、健也のド直球な質問や言葉で崩れてしまうほどの弱さが描かれています。
どんな職業や立場、環境でも関係なく、多くの人に同じような心の闇があるんだと痛感しました。
自分自身と向き合うきっかけになった
読み始めた当初、この関係者らの主張があまりにも自分勝手だとか、性格悪いなとか思ったりもしたのですが「自分にもこういう思考していた時期あったな」とか「あ~、わかるかも」と、そう言い切れない部分があることに気づきました。そして、自分もそっち側(関係者側)の人間だなと。
そのため、健也の言葉で心にグサッと突き刺さるものが多々ありましたが、不思議とスッキリした感覚もありました。私にも過去の経験からくる思い込みや決めつけが多くありますし、自分の中にある様々な膿について、自問自答する良いきっかけになったと思います。
「死ねばいいのに」は会話劇による心理サスペンス
「死ねばいいのに」は、人間の本質を生々しく浮き彫りにさせた新感覚な心理サスペンスでした。会話劇メインの小説は、読んだことがなかったため、ストーリーの面白さだけでなく、その場に居合わせているかのような臨場感も味わえて良かったです。元々、京極夏彦さんの作品は好きなので、また他の作品ももっと読んでいこうと思います!
京極夏彦さんの作品では「姑獲鳥の夏」の読書感想も綴っているため、興味のある方はご覧ください。
最後まで読んでくださりありがとうございました。








