【読書感想(漫画)】蝉法師|墨佳遼|蝉の生き様に圧倒されました

こんにちは、ginkoです。
先日、オンラインショップで偶然みつけた「蝉法師」という漫画。「”蝉の一生”を描いた」という紹介にひかれて思わず購入したのですが、読んでみると「とにかく面白くて、考えさせられて、前へ進みたくなる」漫画でした。
この記事では、漫画「蝉法師」についての魅力を紹介しつつ読んだ感想を綴っているので、気になる人は参考にしてください。
あらすじ
ある夏、無事に羽化を終えた熊蝉法師と油蝉法師は、近くの枝で羽化不全を起こしている一人の蝉法師を助ける。明々蝉法師と名乗るその蝉法師を加えた3人は、命を繋ぐ使命を果たすため、約2週間の嫁探しに共に旅立っていく。。。
蝉を擬人化し、その短い一生を描いた作品で、オス目線の蝉法師3話とメス目線の尼蝉法師3話の読み切り作品(計6話)です
ポイント
蝉の一生を擬人化するユニークなアイディア
動物や虫を擬人化する作品は他にも見かけますが、そのうえで一生をストーリーにする発想の作品はあまりみかけないため、ユニークで特異的。また、ストーリー設定も素晴らしく、蝉を蝉法師(オス)と尼蝉法師(メス)に分け、蝉の一生を「修行」になぞり、それぞれの視点で物語が進められています。
さらに、蝉の種類は宗派で表され、蝉の鳴き声は念仏として描くなど、物語を通じて設定の軸がぶれておらず、不自然な感じも一切ありません。また、宗派によって着ている装束デザインを変えるなど、細かい部分までこだわりを感じます。
圧倒的な画力とデザイン
人、動物、昆虫、樹々など、どれをとっても力強くも繊細かつ綺麗なタッチで描かれています。蝉の一生を描いているため、辛い描写が多々ありますが、グロさはありません。
「大気をゆするほどとされる渾身の大念仏の迫力」や「自然の脅威の恐ろしさ」など、見ると心が揺さぶられるような圧倒的な画力によって、蝉の懸命に生きる姿がひしひしと伝わってきます。
また、キャラクターが身にまとっている装束もおしゃれで、かなり魅力的です。キャラクターは、擬人化といっても完全な人ではなく、耳は描かれず、手足は6本(腕4本と足2本)で足も鉤爪がついたような形状をしています。
しかし、普段はこの装束のおかげで見えにくくなっているため、パッと見は人間に見えるのです。さらに、装束も蝉の一部として扱われており、飛ぶ時はこの装束が羽となります。
擬人化を補う役割と蝉としての役割を上手く融合させた装束デザイン、ストーリー発想からの具現化がとにかく素晴らしいです。
作者は、墨佳遼(すみよしりょう)さん
アイデア・ストーリー・画力・デザイン全てにおいて「素晴らしい」としかいいようのない「蝉法師」を作ったのは、墨佳遼(すみよしりょう)さんです。
公式サイトによると、墨佳遼さんは、モンスターハンターシリーズのモンスターデザイン3Dモデラーをされていたそう。現在はフリーで漫画の執筆をメインにされているそうですが、劇場版モノノ怪のデザインにも参加されていたらしく、多才であることがうかがえます。
さらに、アニメ・漫画・ゲーム系の学校での講師経験もあるとか。名前を認識するのは今回が初めてでしたが、「モンハン」経験があり「モノノ怪」好きとしてはテンションが上がりつつ、納得のいく経歴の持ち主でした。
「人外」「人格」を描くことに人生を捧げている(!)そうなので、他の作品もまた読んでみたいと思います。
読書感想
唯一無二の世界観を感じた
漫画にせよ小説にせよ「こんなんよく思いつくなぁ」と思う作品にたまに出会いますが、この作品もその一つです。
確かに蝉は、知名度が100%に近いほどメジャーな昆虫で、かなり短命なことも何故か有名です。しかし、その蝉の一生を擬人化させて物語にするとは、かなりユニークな発想だなと思いました。
そして、擬人化させるにあたり、蝉を修行僧(法師)とした設定などもとても面白いです。ここに出てくる蝉は「熊蝉法師」「油蝉法師」「明々蝉法師」の3人がメインで、モデルが「クマゼミ」「アブラゼミ」「ミンミンゼミ」であることがよくわかります。
(ちなみに、法師の名がつく「つくつくほうし」も有名ですが、こちらは漫画に登場しませんでした。。。)
種のちがいは、宗派とちがいとして描かれており、念仏(鳴き声)が異なるから嫁を取り合う心配もないなんて、なんともよく出来た設定だなと感嘆しました。
画とストーリーで蝉の生き様がしっかり伝わった
ストーリーは、蝉の一生を「修行」になぞらえているため、それだけでも説得力を感じますが、決して説教じみておらず、スーッと心に響くものがあります。加えて、画だけでも伝わるものがあり、特に念仏を唱える様はこちらまで届くほどの迫力で、胸にこみ上げるものがありました。
また、オスの話だけでなく、メス視点の話も描かれていたことも良かったです。メス(尼蝉法師)は、オスのように念仏を唱えることはありませんが、子を産むとすぐに果てるため、オスよりも「生に対する心の在り様」が印象的でした。オスの話とメスの話が、キレイに交わるラストも感動的で良かったです。
命、時間の大切さを改めて考えさせられた
蝉は自分にとって「鳴き声がうるさくて短命な昆虫」というイメージしかなく、夏に仰向けで果ててる姿を見かけると、何とも不快な気分になっていました。特別嫌いというわけではありませんが、この漫画を読んで、見る目が変わったことは確かです。
漫画では、蝉は地中で7年の修行を行い(幼虫時代)、最後の修行として地中での嫁探し(=子孫を残して命を繋ぐこと)をするとしています。その蝉の一生は、常に危険と隣合わせで、漫画では以下のように語られています。
- 地中(幼虫)時代の生存率は半数以下
- 地中に出ても6割は羽化の最中に命を落とす
- 羽化しても4割は番うことなく命を落とす
仮に、誕生する幼虫(オス)が100匹だとしたら、最後の番いに成功できるのは12匹なのです。わずか12%の使命達成率に入るべく、蝉が命を燃やす姿には「今まで気持ち悪がってごめん」と感じずにはいられませんでした。
また、私にとってはあっという間に感じるほど、人間にとっての2週間はとても短いですが、蝉にとっては当然、短いという感覚はありません。只々、子孫を残して命を繋ぐことを使命とし、短い命をその為だけに全力で使い切っているのです。
なかでも、一人のキャラクターが、生涯を終えると悟ったときに放ったセリフ「最後までやりきるってのは本当にいいもんだ」「俺の人生思ったよりも清々しいぞ!!」がとても突き刺さりました。
自分にはこれほどまでに、命をかけるものがあるのか、あったのかを考えると、なんともいえない気持ちになります。何のために時間や命を使うのか、ものすごく考えさせられたと同時に、今抱える悩みがちっぽけに感じ、不思議と前向きな気持ちにもなりました。
今年の夏は、蝉の鳴き声がいつもと違って聞こえるはず
「蝉法師」は、私にとって心に残る衝撃的な作品でした。読んだ直後から何度も読み返した漫画は久しぶりで、偶然見つけることができて本当に良かったと思います。
ぜひ多くの人に、蝉の生き様を感じてもらい、衝撃や感動を味わってもらいたいです。毎年疎ましく思っていた蝉の鳴き声も、今年は違って聞こえるような気がします。