【読書感想】月とアマリリス|町田そのこ|サスペンスなヒューマンドラマ

こんにちは、ginkoです。

今回手にしたのは、町田そのこさんの「月とアマリリス」。

タイトルと表紙に惹かれて手に取ったいわゆる「ジャケ買い」でしたが、読んでみると、一人の記者の再生劇を存分に楽しむことができました。この記事では「月とアマリリス」を読んだ感想を、みどころとともに紹介します。(ネタバレには注意していますが、未読の方はご注意ください。)

【あらすじ】

北九州市で、タウン誌のライターをしている飯塚みちる。みちるは、約1年前まで東京で事件を追う記者をしていたが、とある事件で自ら犯した罪に耐え切れず、実家に逃げ帰ってきた経緯をもっている。

ある日、東京での元上司兼恋人であった宗次郎から「北九州市の山中で白骨遺体が見つかった」と連絡がくるが「もう事件は追わない」とみちるは取り合わない。しかし、遺体に自分と同じ名前が書かれたメモ書きが残されていたことを知り、再び事件を追うことに。

やがて、見えてきた真実とともにみちるもまた、自分の過去と向き合っていく。。。

【みどころ】

ミステリー要素をもったヒューマンドラマ

本作の紹介帯にサスペンスというキーワードが入っていましたが、実際に読んでみるとヒューマンドラマ的な要素の方が大きい印象を受けました。「山中で発見された白骨遺体が誰のもので、何故ここに埋められていたのか」を解明する過程で、主人公の心情や登場人物達との関係性などが丁寧に描かれています。

ただ事件の真相を追うだけの物語ではなく、事件を追った先にある主人公たちの変化にも注目の作品です。

記者という職業がリアルに描かれている

真実を追うための取材描写が多く、記者という職業が体力的にも精神的にも、いかに大変かがわかります。どんなわずかな情報でも、真実のヒントになる可能性を信じ、あちらこちらに足を運ぶのは並大抵のことではありません。

遠い場所まで足を運んでも情報を得られない場合もあれば、関係者から話を聞くこともできない、罵倒されることもある、それが記者の現実。また、記者としての信念や葛藤など、内面的なことも描かれているため、より記者という職業のリアルが感じられます。

心の葛藤と成長の描写が丁寧で伝わりやすい

プロローグをのぞいて、本作は最初から結末まで主人公目線で描かれています。さらに、主人公の心情はかなり丁寧に描写されているため、何を考えているのかがわかりやすく、感情移入がしやすいでしょう。

この物語は、主人公が自ら犯した過去の失敗にふさぎこんでいるところからスタートしています。そのため、ストーリーが進むにつれて、主人公の想いがどう変化し、何を決断するのか、最後まで目が離せません。

【読書感想】

主人公の心模様もリアルだった

この小説を読んでる途中、正直、この主人公に理解できないというより、あまり好きじゃないなぁと感じていたのです。「自分の正しさで突き進んだ結果、罪を犯して傷つく→実家に逃げ帰る→約一年後に今度は逃げないと再度奮起する」という流れで物語は始まるのですが、自分の正しさにこだわる様が頑固にもみえ、性格も少しきつめな印象がありました。

そもそも「自分は(他人の)罪を逃がさない」としておきながら「自分の犯した罪からは逃げてるやん!」と思い、過去にもう一度向き合うにしても「事件の種類(いじめと殺人事件)が違うんじゃない?」「なんか向き合い方が間違ってないかい?」とか、主人公に対して色んなモヤモヤを感じながら読み進めておりました。

しかし、色んな人たちとの会話を重ね、行動や言動に変化がみられる様子はとてもリアルな感じがして、とても良かったと思います。また、当初抱いた「向き合い方の方向性」についても主人公自らが後半で言及しており(笑)、私みたいな読者の心まで読んでこの展開にしたの?とさえ思っちゃいました(笑)。さすがです。

物語の展開が都合良すぎるのでは?

物語だからある程度はしょうがないのかなとは思いますが、主人公たちにとって少し都合が良すぎるのでは?と感じる展開が多々ありました。事件には悲しすぎる背景が多く描かれていましたし、苦しむ人たちの描写もたくさんありましたが「たまたま追うことにした事件に自分の関係者が関わっていた」ことを始め、事件の点と点を結ぶ際の偶然が奇跡的だなと。

ただ、人と人の出会いは偶然の産物であると思うので、この事件をきっかけに出会った人達との交流や関係性の変化については素敵な展開だなと感じました。

「月とアマリリス」の意味を考えてみた

この作品を初めて知った時、なんてキレイなタイトルと表紙なんだろうと思っていました。そのため、タイトル回収に対して勝手に期待しすぎており、読了後に「ん?で?」と感じてしまった自分がいます。

「アマリリス」は作中にも登場しており、「おしゃべり」を意味していることはわかっていたのですが「月」がどうも理解できませんでした。「どこで出てきた?」と思い、読み返してみたのですが、その答えは主人公とは別視点で描かれたプロローグにあったような気がします。

このプロローグでは、ある人物が月をみて「卓球」を思い出しており、これが後に主人公とその人物を結びつけるキーワードの一つだったのです。つまり「月とアマリリス」は「卓球とおしゃべり」を指しているのだなと思ったのですが、とはいえ「なんでこのタイトルだったんだろう」とも思ってしまいました。

私の読解力が乏しいのが悔しいところですが、それなりに考えた結果「この作品におけるテーマ(タイトル)は会話だった」のかなと思いました。この作品では、主人公が色んな方と会話をすることで真実に近づくことができ、また、その会話によって相手との関係性にも変化が見られています。

それなら「アマリリス」だけでいいじゃないかとなりますが、おしゃべりなら一人でも可能です。ただし、その場合はただの独り言で、会話をするなら相手が必要・・・。そう考えると、タイトルにあるもう一つの「卓球」は、二人を結びつける要素だけでなく、会話のラリーを表す要素としても成り立つような気がして・・・。

あくまで個人的な見解ですが、そう考えたら自分の中でしっくりきて、人との関わりで会話って厄介だけど、大切であることも伝える話だったのかなぁ?と勝手に思いました。

人づきあいは苦手だけど・・・。

現代では、対面しなくてもメールなどのやり取りだけで、人とコミュニケーションがとれる時代になりました。私自身、人との会話は苦手な方なので、場合によっては対面しなくてすむことをありがたいとさえ思ってしまいます。

この作品を読んで、会話の大切さや会話がもたらす影響について改めて考えることができました。特に嫌な相手とかでもないのに、メールでやり過ごそうとする私ですが、今度は電話をかけてみようかななんて前向きになれた今日この頃です。

ミステリー要素をより多く含んだヒューマンドラマなら、湊かなえさんの「落日」もおすすめです。こちらでも主人公が過去と向き合いながら、ある事件の真相を追っていくのですが、あちらこちらに散りばめられた伏線の回収が見事な作品になっています。

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