【読書感想】姑獲鳥の夏|京極夏彦|薄暗い世界観と京極堂がクセになる

こんにちは、ginkoです。
今回は京極夏彦さんの「姑獲鳥の夏」の読書感想を綴ります。
京極さんの小説は今回が初めてでしたが、読んでみたらクセになりそうな薄暗い世界観と、一風変わった京極堂の謎解きが面白かったです。また、他の小説に比べて長篇で重厚な内容でしたが、次から次へと先が気になるほど引き込まれ、思っていたより早く読了できました。
ネタバレは極力回避しております、本作品が気になる方は参考にしてください。
あらすじ
終戦から7年経った昭和27年(1952年)の東京、夏。
雑誌などの記事を書く文士の関口は、古本屋「京極堂」の店主をつとめる友人の元を訪れます。彼の名は「中禅寺秋彦」。しかし、大抵の人は彼のことを屋号の「京極堂」と呼んでいます。
京極堂に時折訪れる関口が今回持ち込んだのは、東京の雑司ヶ谷にある産婦人科「久遠寺(くおんじ)医院」で囁かれる「奇怪な噂」。
関口は京極堂に訪ねます。
「二十箇月もの間子供を身籠っていることができると思うかい?」
長い間妊娠し続けているのは、この久遠寺医院の息女である久遠寺梗子。そして、梗子の亭主である牧郎は一年半も前に医院の密室から忽然と姿を消したというのです。
京極堂は答えます。
「この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君」
さらに、久遠寺医院には亭主の失踪だけでなく、生まれたばかりの赤ん坊がいなくなったという噂も。関口が共通の知人である探偵の榎木津礼二郎の元を訪れると、偶然にも久遠寺梗子の姉である涼子が「牧郎が生きているのか死んでいるのか知りたい」と相談にやってきます。
調査を進めるごとに深まっていく久遠寺家の謎。様々な人間関係や久遠寺家の過去と因縁、そして人間がもつ「心の問題」が複雑に絡む中、京極堂によって解き明かされる事件の真相とは?
「姑獲鳥の夏」のみどころ
本作を読んで、私が感じたみどころを紹介します。
1:京極堂の博識による論破
この作品では、古本屋主人である京極堂(中禅寺秋彦)の博識ぶりが存分に発揮されています。語り部である関口も、元々粘菌の研究をしており、物書きをする仕事柄、それなりに知識を有しているのですが、京極堂ほどではありません。
関口が口にする疑問に対し、京極堂は民俗学や哲学、科学などあらゆる知識を駆使して軽々と答えていきます。関口の反論にも容易く論破していく様は、関口が哀れになるほど。また、京極堂と関口の会話は、物語の伏線にもなっていくため、とても重要です。
2:一味違うミステリーの仕掛け
この作品では、密室からの失踪や二十箇月の妊娠、消えた赤ちゃん、一族の伝承と因縁など多くの謎が散りばめられています。その謎は、最終的に京極堂によって論理的に究明されていきますが「誰誰がこうしたから、こうなった」というような単純なものではありません。
本作では、人の心理や脳の機能について多く語られており、それらもトリックの一つとして組み込まれています。まさに「そうきたか」と思わせられるミステリーを楽しめるでしょう。
3:個性豊かなキャラクターと唯一無二の世界観
語り部である文士の関口、真相を究明することになる京極堂、特殊体質をもつ探偵の榎木津、そして刑事の木場。彼らは、互いに古い付き合いのある知人同士であり、この作品で活躍する主要な登場人物です。
彼らは、それぞれに個性が強く、仲良くつるむような間柄ではありませんが、本当に困った時に手を差し伸べるようないい距離感があります。また「戦後の薄暗い時代を舞台に不思議な事件の真相を究明する」内容は、唯一無二の世界観でとても魅力的です。
そもそも姑獲鳥(うぶめ)とは?
本作品で京極堂が語った内容によると、本来、姑獲鳥は「こかくちょう」と読み、中国において悪鬼とされていたそうです(別名:夜行遊女、天帝少女)。羽毛をまとうと鳥になり、羽毛を脱ぐと女性になる化け物で、女児を攫って養女にする性質があるのだとか。
一方「ウブメ」は、本来「産む女」と書き「お産で死んだ女の無念」という概念を形にしたもので、人を祟ったりはしない(幽霊ではない)としています。ウブメは人に子供を預け、預かった子供は次第に重くなったり病気になったりするといわれていますが、これは「怪奇性を増すための後付け」だと京極堂は語っていました。
日本において「姑獲鳥(こかくちょう)」と「ウブメ」は、やがて混同されていきましたが、そもそもこの手の類は口碑伝承(こうひでんしょう。人から人へ口頭によって伝えられる話や記録)によって形が変わっていくものとしています。
京極堂の話を聞いた関口は「性質が正反対の姑獲鳥とウブメが一緒になった(混同された)こと」に疑問を感じていましたが、タイトルにある「姑獲鳥(うぶめ)」が作中で何を意味しているのか、その答えも大きな見どころです。
読書感想
1:デビュー作とは思えないほどの完成度、長篇でもぐいぐい読めた
本作が京極夏彦さんのデビュー作であったことを、読み終えて初めて知りました。ストーリーやキャラクター、ミステリー要素など、素人目にはそんな事に気づかないくらい、どれも素晴らしかったと思います。
また、「姑獲鳥」をはじめ京極堂の語るウンチクについては、かなり知識(あるいはリサーチ)がないと書けないはず。ましてや、それをストーリーに上手くはめ込んでいく・・・「デビュー作でここまで書けるものなのか?」と思わずにはいられないくらいの完成度だと思いました。
さらに、本作品は600ページを超える超長篇小説(デビュー作品として異例だとか)。読もうと思って購入したものの、文庫本の厚さ(約2.5 cm!)でつい後回しにしていたのですが、読み始めると長篇が気にならないくらい物語の世界に吸い込まれました。
2:京極堂の魅力にまんまとハマりました
本作は文士の関口が語り部となっており、彼目線で物語が進んでいきます。そのため、物語の全体を通して、京極堂が出てくる箇所は限られているのですが、その存在感は圧倒的でした。
初登場のシーンで早速、京極堂節が炸裂していて、始めは読み飛ばそうかと思うくらい「何言ってるの?」感が大いにあるため、このあたりは人を選ぶと思います。ですが、「?」がある状態でも頑張って(笑)読み進めると、なんとなくイメージがわくような気もするし、妙な説得力があるんですよね。
また、小説を読み終えてみると、京極堂の考え方が結果として作中のヒントになっていたことがわかりました。見た目はいかにも不機嫌・不健康そうで、口を開けばウンチクばかり。関口を相手に、かなり言いたい放題な印象も受けましたが、彼なりに思いやりもあるようで、最終的に手を差し伸べてる所もまた魅力でした。
3:まったくホラーじゃない!怪奇ミステリーの論理的究明
本作のタイトルが如何にも「怪奇」めいているため、内容も怪奇現象が出てくるホラーなものと思い込んでいましたが、全く違いました。確かに、作中には「妊娠二十箇月の妊婦」をはじめとした「ありえないモノ」が出てきますし、なんといっても京極堂の副業は憑き物落とし。
しかし、その思い込みは、物語の謎解きを担っているであろう京極堂によって、ことごとく覆されました。京極堂は、とにかくウンチクがすごくて(よく言えば博識)、口癖は「この世に不思議なことはない」。その言葉通り、彼の真相究明や憑き物落としは超論理的に行われており、それがとても面白かったし勉強にもなりました(笑)。
「京極堂シリーズ」をもっと読みたくなった
「姑獲鳥の夏」は、姑獲鳥を題材に「戦後の復興中にある東京でおきた、亭主の失踪と残された妊婦、そしてその一族にまつわる過去が複雑に絡みあった事件」を古本屋主人の京極堂が真相究明する怪奇ミステリーでした。
本作品は、人気の「京極堂シリーズ」の第一作目であり、京極夏彦さんのデビュー作。初めて京極さんの小説を読みましたが、長篇でもぐいぐい読めるほど面白く、京極堂の魅力にハマってしまいました。
他の小説も、またすぐに読みたいと思います!
また、この作品はコミック化されており、とてもキレイな画で小説の世界観が見事に表現されています。まだ本作を読んでおらず、長編小説を読む時間が取れない人にはもちろん、すでに小説を読んだ人にもおすすめです。
人間関係が複雑に絡んだ重厚なミステリーなら、湊かなえさんの「落日」も面白かったです。気になる人はこちらの記事も参考にしてください。









